少し前に、ハーバービジネスというネットメディアに『いまだ根強い「本当はSTAP細胞はあった!」説がやっぱりおかしいこれだけの理由』という記事が出ていたが、そこには幸福の科学出版の月刊誌「ザ・リバティ」の記事を拡大コピーしたものを掲げる人達の写真(つまり幸福の科学信者の写真)が使われており、小保方さんを応援する人達にカルト信者のようなイメージを与えるものになっていた。http://hbol.jp/110893

 表紙から既に印象操作的なものがあるが、記事の中身の方にも同様の問題が見られるので取り上げておきたい。
 

クマムシ博士の異名で知られる堀川大樹博士が書いたこの記事は、科学リテラシーの啓蒙が主眼となっていて、非専門家がSTAP問題を正しく理解が出来ないのは一部メディアの報道によるところが大きいとして、このようなことが書かれている。
『 たとえば2016年3月に、ドイツの研究グループが、STAP細胞の作製に成功したという記事が出回った(参照:「ビジネスジャーナル」)。これを読んで、「やっぱりSTAP細胞は存在した」と思った人も多いだろう。』

 ところが、堀川氏が「STAP細胞の作製に成功したという記事が出回った」としてそこで参照しているビジネスジャーナルでは「STAP細胞の作製に成功した」とは報じていない。堀川氏の記事は、大宅健一郎氏の書いた記事がその流通過程で「STAP細胞作製に成功!」というデマとなって拡散されたものを取り上げた、核心を外した反論記事になっている。

 

http://biz-journal.jp/2016/05/post_15081.html

記事の中身をちゃんと読めばわかるが、大宅氏の書いた記事にはSTAP細胞作成に成功とは一言も書いておらず、論文にある酸処理後に多能性マーカーの一種であるAP染色陽性細胞の割合が増加した現象が、酸性ストレスによって細胞が初期化し多能性を示すSTAP現象と同じで、「癌細胞ではSTAP現象を再現出来た可能性がある」という言い方をしている。
 そして記事全体から読み取れる筆者の主張は、「STAP細胞の作製に成功した」という話ではなく、「日本では葬り去られたSTAP研究を継続する研究者がドイツにいた」という事実を知らせることを主眼としている。ところがそこにBJ編集者が記事本文には書かれていない「STAP現象の確認に成功」という反則技の釣りタイトルを付けたおかげで、ニュースが拡散する過程で誇張され、「STAP細胞作製に成功!」という噂として広まっていたのが実態だ。

堀川氏の記事は、そうやって発生した噂を殊更に取り上げて、それに対して「それは間違っている」という論調になっている。つまり、ソースをきちんと読み込まずに堀川氏の中に形成された、実体のはっきりしないイメージに対する反論記事になっているのだ。一種の藁人形論法である。これは、昨年末に有志の会が報じたテキサス大学のiMuSCs論文について、伝言ゲームのように歪曲誇張して拡散された情報を捉えて、サイエンスライターの粥川準二が斜め後ろからの批判記事を書いたのと同じで、デマだと言うデマを書き立てることで、核心部分が目くらましされる形になっている。

 問題の核心は、小保方さんを窃盗犯呼ばわりまでしたSTAP細胞問題は未解決であり、STAP細胞はすべてがES細胞由来のものだとして、当時の野依理事長がSTAP研究自体が虚構とまで言った理研の結論が、間違っていた可能性があるということだ。
 
これまでにSTAP現象に関係しているとされた論文を改めて取り上げると以下の3報がある。

 

○昨年テキサス大の研究チームが発表したiMuSCs細胞は、STAP現象が部分的に再現されたものと言えるが、著者は独自の成果だと主張している。STAP論文は撤回されているため世界初の成果と言っても間違いではないが、これの前身となる論文では違う研究テーマだったものが、投稿論文で追加実験を加えてコンセプト自体が大きく転換されているのは、STAP論文の影響を受けた可能性が高い。

○ハイデルベルグ大ではSTAP論文に大いに触発され、癌細胞を使ってSTAP現象の再現を試みたが上手く行かなかった。しかし何がしかの興味深い現象を見ることは出来た。(これが大宅記事)

○ワシントン大ではSTAP現象を参考にした研究を続けて、癌細胞でOct-4GFPを発現という一定の成果を出している。

 数はまだ少ないが、これらは
まさに小保方さんの研究にインスパイアされたものと言っても良いだろう。そして更に、理研によるSTAP再現実験を論文化した相澤論文では、STAP再現実験の制約の大きさを強調し、暗に「この検証方法では決着は付いていない」と世界の科学界に投げかけている。小保方さんの研究が復権する日も近いかも知れない。