不正調査に関する議論の中で気づいたことがあったのでメモとして。

 CDB自己点検報告書には次のような記述がある。
『このころ、小保方氏は、若山氏の支援を受けてSTAP 細胞から胎盤形成に寄与する幹細胞を樹立する研究に取り組んだ。』

『若山氏は、小保方氏を理研の客員規程に従ってハーバード大学から受け入れたが、小保方氏はC.バカンティ研究室に籍があり、受入れの目的は技術支援であると認識していた。そのため、実験計画や結果の判断に深入りしない方針で共同研究を進め、批判的な観点からの議論や詳細なデータの確認を行わなかった。』


 この件については、反笹井一色に染まっていた理研有志による自己点検チームが若山照彦氏の一方的な言い分を鵜呑みにしているために、報告書でもSTAP研究に対する若山氏の関与がとても低いような印象を与え、それにマスコミの同調があったために世論が偏った方向に誘導され、小保方さんに全責任を押し付ける形で若山氏の責任逃れに貢献したという指摘をこれまでしてきた。しかし自己点検を支持する研究者との議論の中で下記のような説明を受けて、これはもう少し掘り下げるべき問題ではないかと思うようになった。

http://blog.livedoor.jp/obokata_file-stap/archives/1061121488.html
(コメント383.A10)
実験責任者で、自分の実験なら、これらは全部自分で行うと思います。

私ならそうします。

小保方氏は自分の部下ではないし、自分の実験パートで責任があるなら、自分か自分の部下にやらせます。

小保方氏は、ハーバード大の職員で、まだ理研の人間ではなかったですし、実験責任者が若山氏なら、若山氏のノウハウを他の組織の人に伝授する必要はありません(普通は教えません)から、若山氏が自分でやるはずなのですよ。』

 「あの日」には若山氏がSTAP研究に前のめりだった様子が描かれているが、P91.P92にはこういうことが書かれている。

『増殖が可能になったと報告された細胞培養に関しても、どうしても自分で確認がしたく、「培養を見せてください、手伝わせてください」と申し出たが、若山先生は「楽しいから」とおっしゃり一人で培養を続け、増えた状態になって初めて細胞を見せてくれた。』

『若山先生のところに来た研究員は皆、胚操作を若山先生から直接指導を受け技術を習得していた。しかし、私だけは胚操作を教えてもらうことはできなかった』

 これは、増殖可能になった細胞=STAP幹細胞の研究は完全に若山研究室のものとして扱われ、ハーバード所属の小保方氏にはノウハウを隠していたということだろう。
 「THE NEW YORKER」には、ハーバードの小島氏の話としてこの事実を裏付ける証言がある。
Obokata resisted working on the stem-cell line; she wanted to remain focussed on the research she had been doing. When Wakayama pressed her, she grew embittered. In Boston,Kojima heard her screaming while reading her e-mail. He recalls that sheshouted at the computer screen, “No! I don’t want to do it!” Kojima asked her what was going on. “Dr. Wakayama e-mailed me so many times,” she told him.“Like, ‘Did you do this assay? Did you do this experiment?’ Anything related tothe stem-cell line, he forces me to do. I don’t want to, because I don’t know how to make it. I tried. I couldn’t.”

(小保方は幹細胞系に取り組むことに抵抗した。彼女は自分がこれまでやってきた研究に集中したままでいたかった。若山の強要に彼女はうんざりした。ボストンでは、小島がEメールを通した彼女の叫びを聞いていた。『イヤ!私はやりたくない!』画面の中の彼女は叫んでいた。小島は何が起きているのか彼女に尋ねた。『若山博士は私に何度も何度もメールを寄越すの。』と彼女は言った。『「この分析は終わった?」「この実験はやったの?」って。彼が私に強要してくるのは、全部が幹細胞系のこと。私はやりたくない。私にはどうやればそれを作れるのか分からないから。私はやってみた。でも出来なかった。』)
 

 これはつまり、若山氏が単なる協力者・支援者であるかのような話はまったく事実と異なっており、自己点検報告書にある『実験計画や結果の判断に深入りしない方針』とは真っ赤な嘘で、レター部分の実験は最初から完全に若山氏が実験責任者として主導権を握っていたことを示している。そしてハーバードのポスドクだった小保方さんは、自分が再現性を確認できない実験をやらされていたというか手伝わされていた状態だったのではないか。若山氏はハーバードの研究を横取りするようなことを、客員研究員として来ていたポスドクを利用してやっていたということにならないか。道義的に相当あくどいことをやっていたのではないか。

 こういう疑問を持ったので、専門家の多く集まる「一研究者・教育者の意見」ブログで、専門家の人たちはこのことについてどう考えるかと質問したのだが、この見立てが間違っているとの否定も反論もなかったため、私はこれが当時の若山研究室の実態なのだろうと見ている。証言を総合すれば上記のような状態であったと推定されるわけだが、このように若山氏を強く非難することになるものは、事実として確実なものでなければ専門家としておいそれとは同意しづらい内容でもあるし、若山研の内情は想像の域を出るものではないためにノーリアクションだったのだろう。


 しかしいずれ、自己点検チームが事実認定を間違って不公正な調査が行われた証拠ともなるこの問題は、もしも裁判となった場合には重要な争点になることは間違いないだろう。