STAP細胞論文に関する不正調査の最終報告書である桂報告書には、小保方氏からのオリジナルデータの提出がなく、そのため論文データとの照合ができなかった旨が記されており、その事実が小保方氏が捏造を行った傍証だとする言説がある。それに対する反対意見を書くうちに、少し整理できたものがあるのでそれを記しておきたい。

小保方氏が、自分が行った研究に対して疑義を呈されているのに元データを提出しないのは、確かに研究者として非常に「不誠実」な態度に見える。データ提出の拒否は言わば黙秘権を行使するようなものだが、このことが小保方氏に対して疑わしい印象を与えてしまっているのは確かだろう。しかし、実はその前に調査者側の「不誠実」が先にあるということは、理研の不正認定のあり方を見れば明らかだ。

当初、理研の石井調査委員会は、疑義が指摘された論文の体裁上の問題のみを調査した。そして、単なる画像取り違えと、結論に影響しない不適切な加工程度の問題で、理研の規定では解雇処分となる「不正認定」をしつつ、小保方氏抜きでの検証実験を進めようとしたのが理研である。これは「小保方クビにして成果は横取り」にしか見えない

小保方氏は、これに対して調査のやり方そのものを不服として「理研以外の第三者による再調査」を求めて不服申し立てをしたが、理研はそれを却下し「不正が確定」した。この時点でもう小保方氏は懲戒処分を待つ身であり、これは理研の規定では懲戒解雇または諭旨解雇に相当する。

しかし、研究自体が捏造ではないかとの疑惑が解決されていないため、不正調査は理研改革委員会から桂調査委員会の調査へと引き継がれた。ところが、小保方氏は既に「不正が確定」しているので、本来、この調査に協力する義理などない。データを提出したからと言って石井調査委員会の決定が覆る訳でもなく(この流れの異常さは前にも指摘)、であれば、将来どこか別の場所で研究をやり直すためにデータ提出を拒むのはある意味当然のことだろう。信用の置けない調査者に対して頑なにデータ提出を拒み、再現実験だけに身の潔白を晴らす望みを賭けていたということなのだろう。

こうした異常な流れがあるため、小保方氏を一方的に責めるのはおかしいということを私は以前から主張してきたが、世界中の誰も再現できていないため「STAP現象など存在しない」を前提とした異様な空気に支配された中では虚しいだけだった。○
「STAP騒動のこと」「科学者社会は何をしたのか」

が、海外の研究チームから「STAP現象」と同様のものが報告された今なら、不正調査を最初から見直そうという「良心的な科学者」も出てくるのではないかと期待している。

桂報告書の「STAP細胞はすべてES細胞由来」とする結果は、遺伝子解析で細胞的には辻褄があっていても、その結論では人間の行動としてはまったくあり得ない不合理さがある。○
「世界三大不正」 ○「小保方晴子氏の行動原理」
誰もが感じるこの矛盾に対して、正面から異議を唱えるには「誰も再現出来てない」の壁が立ちはだかっていた。だから、小保方批判に熱心な科学者達やそれを鵜呑みにしたマスコミでは、この大きな矛盾から目を逸らし「STAP現象など死にかけの細胞を勘違いしたオボちゃんの妄想」として片付けられていた。特に、NHKの報道姿勢は完全にこの決め付けを前提としたものだった。

ところが、刺激によって細胞がリプログラミングされることが海外で実証され、STAP実験で見られた現象が死にかけの細胞ではないことが明らかになった。「世界中の誰も再現できていない」の壁は無くなったのだ。
こうなってくると、桂報告書の矛盾について今度は「細胞の辻褄合わせ」が間違っているのではないかと考えるのが自然だろう。

もう一度言おう。
いま科学者がやるべきことは、「あれは本当にES細胞だったのか」ということを見直すことであり、マスコミがやるべきことは、小保方氏に「絶対にSTAP細胞を再現してください」と言い残して亡くなった故笹井芳樹博士が「真偽の判断には理研内外の予断ない再現検証が必要である」と言っていた「STAP現象」と同じものが、海外の研究チームから報告されているという事実を報道することだ。

ところが、科学と社会の架け橋であるサイエンスライターは、いまだに
「研究不正とSTAP現象とは別物」だと言い張って現実を見ようとしない。ちょっと考えれば「ES細胞による偽装」という研究犯罪と、STAP現象のあるなしが別問題であるはずがなく、問題の核心から目を背け続ける科学ジャーナリストなど存在する意味がない。

そして改めて思ったのが、これは典型的な冤罪事件なのだろうということだ。この事件では、厚生労働省村木厚子氏の冤罪事件におけるフロッピー改竄と同じような問題があったのではないかという思いが、いま、私の中で強まって来ている。
「正義の暴走」「みんな単純な話を求めている」