三鷹ストーカー殺人事件の審理が差し戻された。起訴状にないリベンジポルノが判決に過大に影響しているということのようだ。犯した罪に比べて裁判員判決が重過ぎるようなニュアンスを匂わせた新聞もある。しかしそれは違う。起訴されていないことを裁いているから差し戻されたのだ。

 前にも書いたが
、この事件は「殺人」「住居侵入」「銃刀法違反」で起訴されている。これはいったい何の事件の話なのかと思うような起訴内容だ。脅迫、強要、強姦、ストーカー行為、リベンジポルノ等の被害者が受けたありとあらゆる苦痛に対する罪がひとつも起訴状に書かれていないのだ。犯行の悪質性を象徴するリベンジポルノを裁くための罪状を立件しないまま、裁判の中では最重要点として立証して行くという検察のやり方が間違いなのだ。
 これは一審を裁いた裁判員が悪いのでも、裁判員判決を差し戻した高裁が悪いのでもない。被害実態とかけ離れた起訴状を書いた担当検事と、漫然とした公判前整理手続きを行った林正彦裁判長の怠慢がこういう結果を招いてしまったのだ。

 遺族は昨年12月の控訴審公判で「娘の画像は世界中に流れ、今も全部を削除することはできない」とする意見陳述を求めたが高裁はそれを認めなかった。なぜ認められないのかと言えば、遺族の訴えが起訴事実とは直接関係ないことだからだ。この審理差し戻しの意味は、「殺人」「住居侵入」「銃刀法違反」という被害実態とかけ離れた起訴状を書き、犯行の悪質性に正面から向き合うことの出来ない裁判にしてしまい、それに対して「なあなあ」の形で判決を下してはいけないということを高裁は明確に示したということだ。

 名誉毀損罪は『毀損された名誉が死者のものである場合には、その事実が客観的に虚偽のものでなければ処罰されない(刑法2302項)。』となっていて、検察は名誉毀損での立件は無理だと判断したのかもしれない。しかし『ただし、名誉毀損をした後、名誉を毀損された者が死亡した場合には、通常の名誉毀損罪として扱われ、当該事実が虚偽でなかったということのみでは免責されない』ことによって立件は可能だし、その解釈を巡って争うくらいの姿勢を見せなければ、この犯罪を正しく裁くことなど出来はしない。

 担当検事はこれをどう始末するつもりなのか。その責任は重い。被害者遺族にとって、大切な娘をこれ以上にないほど残酷な目に遭わせて殺した犯人を、法の下で正しく裁いてもらうために頼れるのは検察以外にないのに、この不手際は誰がどう始末をつけるのだろう。

 この事件は、ストカー被害相談当日に殺害されるという警察の不手際が悔やまれる悲惨な事件だ。そして今回の検察の不手際。返す返すも、司法に裏切られ続けている被害者と遺族が本当に可哀想でならない。


211日加筆修正